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東京高等裁判所 昭和35年(う)3006号 判決 1964年3月25日

被告人 村田彦太郎

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役八月に処する。

理由

本件控訴の趣意及びこれに対する答弁は、それぞれ、水戸地方検察庁土浦支部検察官検事田辺緑朗作成名義の控訴趣意書及び弁護人樋渡源蔵提出の答弁書に記載されているとおりであるからこれらをここに引用する。

控訴趣意中、第二(法令適用の誤を主張する論旨)について。

なるほど原判決は、被告人に対し、昭和三五年九月二八日の所犯にかかる恐喝及び同年一〇月一一日の所犯にかかる強要の各事実を認定し、同年一一月二五日懲役八月但し三年間刑の執行猶予の言渡をしたものであるところ、被告人の身上調書及び同前科調書によれば被告人は昭和三三年四月一七日水戸地方裁判所竜ヶ崎支部において住居侵入罪により懲役三月、但し三年間刑の執行猶予に処せられ同裁判は同年五月二日確定したことが明らかであり、右各犯行及び原判決言渡当時被告人は右刑の執行猶予期間中にあつたものであるから、被告人に対し刑の執行猶予の言渡をするについては刑法第二五条第二項第二五条の二第一項後段に則り必ずこれと同時に被告人を保護観察に付する旨の言渡をしなければならなかつたのに、原判決がこれをしなかつたのは法令の適用を誤つたものであることはまことに検察官所論のとおりである。しかしながら、被告人は当審において昭和三六年五月一日の満了により右刑の執行猶予を取り消されることなく猶予の期間(三年)を経過し、その刑の言渡は効力を失つたものであるから、仮に本件につき更に刑の執行猶予の言渡をなすべきものとしても、所論刑法第二五条第二項第二五条の二第一項後段の規定は現在これを適用するの余地がなく、原判決における叙上の瑕疵は治癒されるに至つたものと言わなければならない。されば右法令適用の誤は判決に影響を及ぼすところはなく、これを理由に原判決の破棄を求める検察官の右論旨は理由がない。

控訴趣意中、第一(量刑不当の論旨)について。

よつて考察するのに、一件記録にあらわれた被告人の本件各犯行の動機、態様、結果、被告人の年令、経歴、前科(前項記載のもののほか昭和二五年中、窃盗罪により懲役一年、昭和三二年中、茨城県押売等防止条例違反罪により罰金一、〇〇〇円、昭和三四年中、脅迫罪により罰金三、〇〇〇円)、本件犯行は右前科による刑の執行猶予期間中の犯行であり、しかも被告人は当審において所在を不明ならしめること三年に及び、その間右執行猶予期間は満了して前刑の言渡が失効したこと等諸般の情状にかんがみるときは、原判決が被告人を懲役八月に処し三年間右刑の執行を猶予する旨の言渡をしたのは、刑の執行を猶予すべきものとした点において、妥当を欠く嫌があるので論旨は理由があり、原判決は破棄を免かれない。

よつて刑事訴訟法第三九七条第三八一条に則り原判決を破棄するとともに同法第四〇〇条但書に従い被告事件につき更に判決をする。

原判決が確定した事実及びこれに適用した法令に従い刑を量定するに、前示諸情状にかんがみ被告人を懲役八月に処するのを相当と認め、原審及び当審における訴訟費用の負担言渡の免除につき刑事訴訟法第一八一条第一項但書の規定を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小林健治 遠藤吉彦 吉川由己夫)

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